はてなのこたえ

思ったこと、考えたこと、学んだこと

登りは体力、下りは技術

登山の格言に「登りは体力、下りは技術」という言葉があります。(私は登山に関しては全くの素人です)

一度でも山登りを体験したことがある方なら、この言葉にピンとくるかもしれません。

登りはとにかく体力を使います。息が上がります。

下りはあまり体力を使いません。息もさほど上がりません。

しかし、1歩1歩ゆっくりと、足の踏み場を考えながら下らなければ、足を滑らせて転んでしまいます。

そして大抵、登山が終わると「登りよりも下りの方が大変だな。」という感想を抱きます。

登りは体力、下りは技術。

この格言は登山だけでなく、ビジネス、スポーツ、人生など、あらゆることに通じる言葉だと、私は思っています。

拡大は勢いでなんとかなる。が、縮小していくのが難しい

ビジネスで例えると、拡大期は勢いだけでなんとかなることが多いです。

参入しているマーケットが拡大しているし、銀行の融資も付きやすい。メディアも積極的に取り上げてくれるし、話題性があれば人材も集めやすい。

少々ミスしても、売上や市場の規模拡大がすべてを吸収してくれます。

あまり深く考えなくても、オラオラと勢いがあれば、どんどん会社を大きくしていくことができます。

しかし、競合が増えてきたり、マーケットが成熟し、かつての勢いがなくなってくるような「こなれた状態」になると、拡大期のようには上手くいかなくなります。

拡大したレバレッジはいつか縮小しなければならない。融資を受けることよりも、返済する方が100倍も大変な作業です。(ソフトバンクのように融資を拡大し続ける会社もありますが)

メディアもかつてほどは取り上げてくれない。

提供している製品・サービスのブームが過ぎれば、人材も集めにくくなる。

このような環境になってはじめて、さらなる拡大にも、生き残りにも、規模縮小にも「技術」が必要となります。

オラオラと勢いだけで拡大できていた時代に比べると、技術が必要な「緻密な作業」は面白くもなく、得られる結果に対して過大な労力がかかります。

そうして、真の技術を持つ一部の会社だけが生き残るというわけです。

これが、ビジネスにおける「登りは体力、下りは技術」です。

アスリートや新入社員も同じ

スポーツ選手や新入社員も同じです。

体力があるうちは無理な筋トレや根性でなんとかなってしまうことも多いです。

徹夜で遊んでも、次の日も元気よく動けます。

アスリートの多くは、30代をすぎると徐々にピークアウトします。そのまま40代、50代までスポーツ選手として、現役を続けていくのが難しくなります。

これまで最も必要としていた「体力」ではなく、「技術」を使って第2の人生を考えていかなければなりません。

年齢によって、求められるスキルは変わるということです。

何も知らない、わからない新入社員でも、上司に可愛がられたり、若手ならではの活力で、一定の結果を出すことができます。

しかし、年齢を重ねるにつれて、体力は衰え、取引先からの印象も変化します。仕事の内容も、かつては力任せで通用した営業職から、「技術」が求められるマネジメント職になっていくことも多いでしょう。

将棋の羽生善治さんも同じようなことを言っています。

数手先を読みながら、最適な手を打つことが将棋では求められます。

若いうちはとにかく深くまで読むことができ、かなり先の手数まで読めるそうです。また、リスクを気にせず大胆な手を打てるのだとか。

しかし、年齢を重ねるにつれて頭の回転は鈍り、棋士といえども、かつてのようには、手数は読めなくなってくるそうです。敗北を通じて学んだ「怖さ」は、リスク回避的な思考を生み出します。

だからといって、羽生善治さんや他の老練な棋士が弱くなるということはありません。

これまでの勝負で得られた「経験則」や、「大局観」という大きな流れを読む力を使い、年相応の戦い方ができるようになるからです。

経験則や大局観と言ったものは、若手棋士にはない「技術」です。

日本の経済も同じ

日本の経済にも「登りは体力、下りは技術」は当てはまります。

高度成長期はとにかく拡大一辺倒でした。

経済も株価も、永遠に上昇し続けるものであると誰もが考えていました。

しかし90年代にピークアウトした日本の経済は、その後停滞し、人口減少もあいまって下り坂の状態だと言われています。

下り坂では財政が悪化し、税金が上がり、設備が老朽化し、所得格差が広がり、、、と、あまり良い印象がありません。「技術」が求められる「下り」は期待感が薄く、面白みも感じにくいものなのです。

それでも下っていかなくてはならない。誰かが下りを担当しなくてはなりません。再び登りの時代が来ることを待ち望みながら。

登る人、下る人、落ちる人

登りは体力、下りは技術。

本当にあらゆる分野に当てはまることなので、私も常々意識しています。

もちろん、「ずっと登り続ける。ずっと体力勝負を続ける。」というのも立派な選択肢です。

現実に、ビジネス業界でも、スポーツ業界でも、そうした方法で大成功を収めている例はたくさんあります。

しかしそれができるのはごく一部の人や会社だけ。

多くの場合、体力だけで勝負できる「登り」では差が付きにくく、技術が必要な「下り」で大きな差がつきます。

なぜなら、「下り」の場面では様々な形での「ふるい落とし」があるからです。

「登り続ける人」、「うまく下れる人」、「ふるい落とされる人」に分かれるとするなら、私はうまく下れる人になりたいと考えます。

なぜならそれが一番、自分にとってストレスが小さい選択だと思うからです。

重力に反して登り続ける人はカッコいい。けど大きなストレスを感じながらそれを続けるという選択は取りたくない。(少なくとも自分は)

また、山からふるい落とされて痛い目を見るという選択も取りたくない。

どれを選択するかはその人次第です。

初心者は下山でよく転ぶ

山登りをしていても、手慣れた人がしっかりとした足取りで下山していく一方で、登山に慣れていない初心者は、下山で何度も転びます。(私のことですが、、、)

下山中に何度も転んでしまうのは、

  • 下りの技術が身についていない
  • 登りで体力を使いすぎてしまう(準備ができていない)
  • 登りと下りの切り替えがうまくできていない

などが原因なのだと思います。

うまく下るためには、事前の準備をしっかりと行い、下る技術を身につけ、登りと下りの潮目の変化を上手く捉えることが大切だと思います。